第八話:あやしすぎる店
昼食はいつも職場の近くで外食、ということになると、結局、同じ店ばかりに行くようになり、しばらくすると少し飽きてきて、新たな境地を開拓したくなります。なので、たまに新しい店が開店していたりすると、ちょっと試してみたくなります。といっても、それが全て成功とは限らず、というか、失敗の方が多くて、だから、こういう「伝説の飲食店」ネタができるわけですが...
その日も、突如として新たに開店した店があったので職場の仲間と二人で入ってみることにしました。「あ、ここ、新しい店ができてるよ」「行ってみる?」といったからにはひきかえせません(というほどのこともないが...)。
店のドアに手をかけた時に、
「あれ?ここ、大丈夫?」
とは思ったんですよ。何しろ、まるで飲食店のようでないから。何やら洋服を売っていたり、雑貨、輸入雑貨かなあ?なにやら雑多なものを売っている様子でした。
ドアをあけて入ってみると、なにやら東南アジア系のオネエサマ方数人がいらっしゃいました。これが、客のようでもあり、客のようでもなし...テーブルを囲んで、何かしゃべっているだけで、店員ではないけれど、客でもないのかな?という様子。「いったいここは?」と思った次の瞬間に、パンチパーマで恰幅の良い、いかにもソレ系のオッサンが出てきたので、ちょっとビビリました。
オッサンは
「いらっしゃい!」
と、野太い声で言うんです。なので私は
「あ、あの~、おもてに、ランチの看板があったのですけど...」
というと、オッサン
「ああ、やってますよ。どうぞ」
といってテーブルを指さすので、おそるおそる座ることにしました。
しかし、メニューがなく、オロオロしていると、ヤッちゃん、いや、オッサン、いやいや、ヤッちゃんでいいや、まあ、そのイカニモな方が
「開店したばかりなんで、特別サービスのランチ作るんで、食べてもらえますか」
というんですよ。
「は、はあ、それでお願いします」
としかいいようがないですわ。ただ、値段がいくらとは言わなかったなあ、という一抹の不安を抱えながらです。ボッタクリだったらどうしよう?と思い、財布の中にいくら入っていたかを思い出していました。
しばらくすると、そのヤッちゃんが突然、店の外に出て行きました。すぐにマンガ本をかかえてかえってきて、いきなり私たちに渡すのですよ。
「はい、これでも読んで待っていてください」
と。「は、はあ」といいながら、しかたなく半分震える手でマンガ本のページをめくりました。
ほどなく、そのパンチパーマのヤッちゃんがランチを運んできましたので、とりあえず「残したらイカンだろう」などと思いながら食べていると、また、ヤッちゃんがやってきて
「どうですか?」
「何か気付いたことがあったら、なんでも言ってくださいよ」
というので「は、はあ、とくに...」と適当に答えていたら、なかなか許してくれない。
「なんでもいいんですよ」「何かあるでしょう」
としつこくきくのです。それに耐えかねた相方が
「ああ、まあ、あの、肉が固いですね」
って、おい!知らないぞ~!そんなこといっちゃって!するとヤッちゃんは「そうですか」といって眉間に皺をよせながら厨房の方を睨みつけ
「おい!肉が固いってよ!」
と大声で怒鳴ります。
しばらくすると、厨房から、これまたパンチのきいたパーマ(要するにパンチパーマ)の方が出てきました。そして、やっちゃんが、
「おい、いまな。この方がな、肉が固いっておっしゃってるんだよ!!」
と。厨房にいた方は深々とおじぎをして「もうしわけありません」といいます。そうしたら相方は
「いや、味はいい、味はとってもいいんですけど、ちょっと硬いかなあ...」
とかブツブツ言ってごまかしてました(笑)。
結局、会計も一人900円ほどで(って、特別サービスのランチでもなんでもないわなあ...)、ぼったくられることもなく、無事、その店を出ることができました。
しかし、我々は、二度と行くことはありませんでした。それどころか、その店の周辺を避けて歩くようになりました。だって、また会ったりしたら、「こんどは肉がやわらかくなったから、食べてみてくれ」とかいって、店に連れ込まれてしまうかもしれん...
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